新しい仲間、新しい火種

ケープからカリカットまでは
さしたる障害もなく無事たどりつくことができた。
問題は、副官を雇うということを
結局、船員達に伝えられなかったことだ。
もちろん、コーネリアにも・・・。

クロガネーゼ(以下、ク)「マスター、噂を聞いてきたんだが…」

酒場マスター(以下、マスター)「おひさしぶりですね。来るとは思ってましたよ。ほら、あの娘。」

ク「なんでも海軍士官なんだって?フランスの海軍士官がなんでまたカリカットで職探しなんだ?」

マスター「んー、女だてらに軍人をやるってのは楽じゃないんでしょうね。ま、そのあたりは直接、ということで。」

ク「じゃ、マスター、グラスで二つくれ。」

背筋の伸びた彼女は酒場の雰囲気から明らかに浮いていた。
近頃では本国から離れた軍人の風紀の乱れがひどくなっているってのに、
そんな感じは微塵も感じられなかった。

ク「隣、いいかな?職を探してるんだって?マスターから聞いたよ。」

本当は「君のためにセビリアから来たんだ。」とでも言う方が
気が利いてるような気がしたし、事実なんだが、
彼女の雰囲気がその言葉とは違う選択をさせた。

ナターシャ(以下、ナ)「雇っていただけるということでしょうか?」

ク「んー、その前に理由を聞いてもいいのかな?それとも聞かないほうがいいか?」

ナ「理由?」

ク「なぜ、フランス人の君がこんなところで職を探してるのかってこと。」

ナ「それは…いろいろあるんですけど、駐留フランス海軍の軍紀の乱れが原因で、上司と…」

ク「気に入った。雇おう。」

ナ「え?どういう仕事をするかとか、私にそれができるのかどうかとか…」

ク「ん?そんなのは後回しだ。軍紀の乱れを憂う心意気を買おうと言ってるんだ。嫌かい?」
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二人で船に戻ると、すでに空気が違っていた。
船員全てが甲板にいる。

コーネリア(以下、コ)「ふーん、その娘が新しい副官かい?船長、・・・覚悟は出来てるんだろうね?」

この船の人事権は船長にないのだろうか?
そう思ったが、火に油を注ぐこともあるまい。

ク「コーネリア、黙っていて悪かったが・・・」

コ「言い訳は後で聞くよ!ジョニー!

ジョニー「了解でさぁ!」

コーネリアの伸ばした右手にジョニーから投げられたオールがしっかりと握られる。

ク「ジョニー!裏切ったのか!」

コ「船長の相手はこっちだよ!」

数歩走って跳躍したコーネリア。
すでにオールはクロガネーゼに当然のように狙いを定めている。
速い!
しかし、コーネリアを上回る速度でクロガネーゼの前に走りこむ影があった。

コ「!!」

ナ「この方は私の司令官です。傷つけること、まかりなりません。」

コ「『私の』?」

尻餅をついたクロガネーゼの眼前で激しい剣戟が交わされる。
明らかに得物の差が大きい。オールは立派な凶器だ。
一合一合打ち合うたびにナターシャが消耗しているのがわかる。
『このままでは…』
クロガネーゼが剣の柄に手をかけたとき、剣戟が止んだ。

コ「ふん、やるじゃないか。いいだろう。認めるよ。」

ナ「ハァハァ」

ナターシャは大きく肩で息をしている。
立っているのもやっとなぐらいに疲労している。

コ「船長!これで船員全員納得したからね。これでガタガタ言う奴がいたら、あたいが叩きのめしてやる。」

ク「ああ。(・・・ガタガタ言いそうなのは、コーネリアだけじゃないのかよ。)」

それぞれの持ち場に引き上げていくコーネリア達を横目に
ナターシャに駆け寄るクロガネーゼ。

ク「大丈夫か?怪我はないか?」

ナ「はい。」

ク「手荒なことになってすまない。あとで、きつく叱っておくから。」

ナ「いいえ。かまいません。これで私も認められたのでしょう?この船の一員なのでしょう?」

ク「?・・・ああ、そうだ。今日から君の船だ。」

ナ「はい、よろしくお願いします。」

ナターシャの顔は疲れていたものの嬉しそうに見えた。

海軍という男社会の中で、
この娘は居場所が欲しかったのかもしれないな。
そう思いながら、クロガネーゼはナターシャを船室まで案内した。

(つづく)
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by busk01 | 2006-09-17 20:15
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